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SFF2023レポート_08 クロストーク⑤ 農業と食とコミュニティ「給食の地産地食化のその先へ」

2023年10月15日〜16日の2日間にわたり開催した第1回School Food Forumの振り返りレポートVol.8。今回は、最後に行われたクロストーク⑤「農業と食とコミュニティ『給食の地産地食化のその先へ』」を振り返ります。

「地産地食」とは、地域で育てられた食材を、地域で一緒に食べること。

例えば、知っている農家の野菜を食べるとき、応援するような気持ちになったり、いつもよりおいしく感じたりしませんか? それは、生産者と生活者の間に顔の見える関係が生まれているから。そんな風にお互いに気にかけ合い、食のむこう側に人の顔が浮かぶような関係性を地域の中でつくることを地産地食では目指します。

このトークでは「地産地食と流通」を切り口に、給食と地域のより良い関わり方について意見を交わします。「流通」とは、生産者から生活者に商品が届けられる仕組みのこと。もし、給食の地産地食が各地で実践されるようになれば、従来のスーパーマーケット等の農産物の流通の仕組みも変わるかもしれません。

そこでクロストーク⑤では、有機野菜の流通を手がける株式会社ビオ・マーケット 執行役員の石田篤さん、そして神山町で地産地食の給食作りを実践する株式会社フードハブ・プロジェクトの共同代表取締役である白桃薫さんにご登壇いただきました。モデレーターは、鳥取大学地域学部で准教授を務める大元 鈴子さんです。

給食の地産地食化のその先にどんな未来が期待できるのか。現場の声を聞いてみましょう。


農業を次世代につなぐフードハブ・プロジェクト


株式会社フードハブ・プロジェクト(以下、フードハブ)では2022年4月から神山町の給食センターと、2023年4月からは神山まるごと高専(以下高専)の寮にある「まるごと食堂」の運営をしています。神山町での給食の地産地食はどのような考えのもと進めているのでしょうか。


その話をするためには、白桃さんがフードハブの立ち上げに関わるようになった経緯を理解する必要があります。神山町で〝地産地食〟が生まれるまでの道のりです。

株式会社フードハブ・プロジェクト 共同代表取締役 白桃薫さん


白桃「私の実家は、徳島県の神山町で代々続く農家です。長男として生まれた私は、大学卒業後は町役場に勤め、農政や建築に携わっていました。フードハブに関わるきっかけは、地元の農業や生産体制に対する危機感でした。

父は神山町で一番大きな米農家で、10haほどの自家圃場での生産や、機械を持たない人の米の刈り取りサービスをしていました。15年ほど前、父が体調を崩して稲刈りができなくなってしまったときがあったんです。

『きっと誰かが代わりに収穫してくれるだろう』と思っていたのですが、代わりにする人は現れなかった。そのとき初めて、一人が倒れたら、まちの農業が立ち行かなくなってしまう状況を目の当たりにしたんです。

農業自体はいつかやろうと決めていたので、私がすぐ農家に転身すれば良いとも考えました。でも、私もいつ同じように倒れるかわからない。このまちの農業を守るためには、属人的にならず、チームとして農業を受け継いでいく方法が必要だと思うようになりました。その答えが、フードハブにあったんです。それから『地産地食』を合言葉に、地域で育てて地域で食べる仕組みを作るようになりました」


「地産地食」を掲げるチームがつくる、地域の給食の仕組み


そんな白桃さんの思いとともに2016年に立ち上がったフードハブ。6年後には神山町の給食センターと神山まるごと高専の食堂の運営まで実現しました。今、どのように給食センターを運営しているのでしょうか。

 
白桃「給食センターの運営では、栄養教諭の先生が作ったレシピを私たちが調理して、神山町内の小学校2校と中学校1校に配送しています。それに加え、地域外の野菜を仕入れて給食センターへの配送もしています。八百屋さんが高齢化して神山の給食センターに納品できなくなったためです。

また、高専の寮の食堂『まるごと食堂』の運営では、調達から調理、配膳まで行っています。


その中で私は、農産物や加工品、調味料などが地域内にどのようなものがあるのか把握をして流通させる仕組みを作っています。


この表をご覧ください。この表は、神山町内にはどんな野菜があるのか、その出荷時期や栽培方法をまとめたものです。これをもとに、まるごと食堂の料理人がメニューを組み立てています。このようなリストがあることで、食材ありきで給食を作ることができます。これこそが、給食運営で最も大切にしているポイントです」


メニューありきではなく、地域の食材を起点に給食を組み立てる。すると、自然な流れで地域のものが使われるようになります。そんな流れを実現するための流通の仕組みこそが、地産地食の肝であることが伝わってきました。


地産地食が実現される中で、農家にはどれくらいのインパクトがあるのでしょうか。具体的な数字を用いた解説がありました。


白桃 「4年後、高専の生徒が1〜5年生が全員そろったとして、寮での給食は1日に約700食出ます。小中学校では200食。1日で合計900食が出ることになります。年間にすると1万8000食です。ここで想定される農産物の仕入れ額は、1ヶ月約245万円。夏休みなど給食がない期間もあるため、年間では約2,200万円になります。ここまでまとまった金額があると、かなりのインパクトです」


ただ、公立学校の食材費は現在250円前後(全国平均)になっており、その金額では有機野菜をはじめとする自分たちが本当に使いたい食材を使うと採算が取りづらいのが現状だそう。高専のように持続可能な食材費を確保してもらうことで、自分たちが使いたい食材と収支のバランスが取れるようになったと話します。


効率の良い流通とは?地産地食化が持つ流通の効率化の可能性


さて、ここからは本題である食の流通について話が展開していきます。その前に、ゲストの石田さんが執行役員を務めるビオ・マーケットやご自身の農園運営についてご紹介します。


1983年創業の株式会社ビオ・マーケットは有機JASの野菜に特化し、全国の有機農家に生産委託をして、仕入れや売り場作りをしています。また、全国1万人の会員さんに有機野菜を届ける自社の宅配サービスも運営。加えてビオ・マーケットでは10年以上前から、関西を中心に各市の学校給食会に登録し、入札に参加して地域の八百屋と同じように有機野菜の納入をしています。


また、石田さんはビオ・マーケットで働く傍ら、神戸市北区にて「さとのくらしfarm」という屋号で年間50品目の野菜を育てています。野菜ボックスとして直販するほか、オープンファームなどを行い、小さなコミュニティでの流通ができないか実験中です。

株式会社ビオ・マーケット 執行役員 石田篤さん


まずは一般的な野菜の流通について、石田さんに聞いてみました。


石田「日本中の各地で生産された農産物は地域のJAや市場に出荷され、中央の市場に流れていきます。その後、各スーパーのセンターを通してお店に届く構造になっています。日本は四季がはっきりしていることや生産技術の向上により『産地化』が進み、地域によって生産する野菜が分かれていることも特徴です」


このような大きな流通の構造の中では、効率の良い流通のためにどのような工夫がなされているのでしょうか。石田さんは「大前提としてスーパーで野菜が買える全国的な流通の構造自体は悪いことではないと思っています」と前置きした上で、以下のように話します。


石田「全国規模の流通では地域のJAや流通業者、スーパーなどいろんな人を介して売り場に届きます。野菜のサイズがバラバラだとハンドリングが難しくなり、売り場まで届かなくなってしまうんです。そのために規格が厳しく設けられています」


つまり、大きな流通における効率の良さとは、規格がそろった状態で大量に売り場まで運ばれることを意味します。しかし、効率の良さを追求するあまり、こぼれ落ちてしまうものがあり、ここにオーガニックの野菜も含まれると石田さんは指摘します。


これに対し、神山町の流通における効率の良さとはどのようなものでしょう。白桃さんは、フードハブでの取り組みで得られた手応えを以下のように話します。


白桃「フードハブが運営するかま屋やまるごと食堂に納品する野菜はコンテナに入れて自分たちで持って行っています。物流の力を借りなくていいし、時間のかかるパック詰めのコストも圧縮できる。そんな手の届く範囲でのやりとりは、効率的な流通のあり方の一つではないでしょうか」

自分たちで納品する際は、パック詰めはせずにコンテナのまま持っていく


大元さんは「私もフードハブに行ったときにパック詰めを手伝ったことがあるのですが、これが一番大変。手間や時間がかかるんです」と振り返ります。収穫してから生活者に届けるまでの手間をカットすることは、環境だけではなく、労働者にとってもやさしい流通のあり方なのかもしれません。

鳥取大学地域学部 准教授 大元 鈴子さん


また、石田さんが取り組む「さとのくらしfarm」では野菜ボックスを農場まで取りに来てもらうことがあるとお話しされていました。生活者側から取りに行くことも新たな流通のあり方なのかもしれません。


給食の地産地食化が進めば、地域の農業のあり方も変わる?


次に話題に上がったのは、地産地食化と地域の農業のあり方。先ほどの石田さんのお話には、日本の農業は「産地化」が進んでいるとの指摘がありました。産地化とは、言い換えれば、より有利に農産物を販売するため、栽培品目を地域単位で専門化して大量生産すること。


そんな状況の中で地産地食化が進めば、地域の農業のあり方も変わるのでしょうか。石田さんはこう続けます。 


石田「現在の日本では、多品目の野菜を作る仕組みが地域の中になくなってきています。つまり、いろんな野菜が求められる給食とはマッチしにくい生産方法が主流になりつつあるんです。もし、給食がなるべく地域のものを使うように変わったら、地域の農地で作られる野菜が今よりも多様なものになるかもしれません。本来はその生産方法は非効率だとされていますが、近所に納入するため配送などの物流の問題もクリアできる。だとすると一概に非効率だとも言い切れなくなります」


一方で白桃さんは、まさに今地域の農業が変わりつつあることを感じているようです。


白桃「地産地食が進めば、地域の農業のあり方は変わると思います。でも、それは無理のない価格設定やゆるやかな規格が前提です。

実際、神山町でも変化が起こり始めています。神山町にある道の駅には野菜の直売所があるのですが『直売所に毎日出すのは苦しくなってきているのだけど、少量でも高専の給食に出させてもらえないか』という相談を農家からいただきまして。それはぜひ一緒にやりましょうということで、栽培品目を相談しているところです。選択肢が増えることで、たくさん出荷できないからやめてしまうのではなく、小さくても圃場が維持されたり、小さな農地で子どもたちのために野菜を作ろうとする動きなど、新たなチャレンジが生まれるのではないでしょうか。

また、農家にとっては給食が販売先になって自分たちの野菜が届いている実感が生まれたら、慣行栽培だったものを少しずつ化学肥料を減らして有機肥料に変えてみようとか、農薬を減らして最終的には有機栽培を目指すなどそういうアクションも生まれてくると思います」


白桃さんが住む神山が含まれる「中山間地域」には、日本の耕地面積の4割があると言われています。ここで問題になっているのが、農家の高齢化や、それに付随する耕作放棄地。大元さんは、地産地食化がこれらの農地活用の鍵になるのではないかと話しました。


地産地食化を進めるために、最初にできること


これまでのクロストークで、給食の地産地食化に関する様々な取り組みを伺ってきました。それらを受けて、給食にローカルな食材を使いたいと思ったときは、具体的にどんなことから始めたらいいのでしょうか。


石田さんより、地産地食化に向けて動き出している自治体の紹介がありました。神戸市では、給食のメニューと使用食材が決まったら、地域のJAと市場に「地域の野菜で使えるものがあれば窓口に出してください」と呼びかけているそうです。


すでに販路があることや事前の値段の契約ができていないため、実際に給食に出ることはあまりないそうですが、すでに動き始めている自治体があると分かっただけでも大きな進歩。そのような動きに対し、石田さんはこう語ります。


石田「給食会も、行政も含め、給食を安全にきちんと作ろうとする切り口ではとても丁寧に頑張っていらっしゃいます。地産地食を進めていこうとする立場の人は、そこへのリスペクトを込めて、仕組みをしっかり理解し、どう既存のルールに合わせていけるのかを考えることが必要なのではないでしょうか。より良いものを作りたいという気持ちは変わらないはずですから」


それに対し「まずは地元の自治体に問い合わせてみたら、見えていないところで地産地食化が進んでいるかもしれませんね」と大元さんがコメント。


また、ビオ・マーケットが関わっている東京の武蔵野市や大阪の吹田市など、1万人の子どものいるエリアでも、部分的ではあるものの安定的にジャガイモ、玉ねぎ、にんじんなどの有機野菜が納品できるようになったそう。給食に対する意識が各地で変わり始めていることが感じられます。

 
他方、 地産地食化を実現してきた白桃さんからは、現実的な答えが返ってきました。


白桃「これは一口に『これから始めたらいい』と言うのは難しいですね。いろんなルートがあるでしょう。神山の場合は、たまたま私が地域の農政や生産者について把握しており、自分も生産者であったということが起点になっていたと思います。私たちも数年間試行錯誤して、目の前の課題をクリアしながらたまたま今の形に辿り着いたという感じです」


地域に応じた変化のプロセスがあり、そこに住む人たちが自分たちのやり方を考えるところから、少しずつ変わり始めるのでしょう。神山町も同じです。当事者意識を持った人たちの小さな行動の積み重ねが、今の仕組みを作ってきたのです。


今回のトークのテーマである「給食の地産地食化のその先へ」 。給食の地産地食の向こう側には、日本の農業のあり方の変化や流通の仕組みまでも、より持続可能なものに変えるチャンスがあることが感じられました。


長年続いてきた仕組みをすぐに変えることは困難なようにも思えるかもしれませんが、まずは部分的なアプローチから始める。少なくとも、実現できた地域がある。そんな現場からの声は、地産地食化を進める人たちにとって心強いエールとして届いたのではないでしょうか。


このトークからちょうど1年が経った2024年10月。改めて、今の給食の現状についての近況をお二人にコメントをいただきました。

 この1年で「オーガニック給食」というワードと共に学校給食について耳にする機会や取り組みの事例も出てきており、非常に機運が高まってきているのを感じています。

 一方で、「オーガニック給食=給食の地産地食化」ではないので、地域の農業と直接結びつかない事例も多いようです。

 生活者が大部分を占める都市部と違い、中山間地はもちろん生産エリアを有する地方都市は前回お話したような地域農業と地域の学校給食を結ぶことで食糧生産だけではない新たな可能性が生まれてくると感じています。

 それぞれの地域に応じた給食の在り方について地域が主体的に考え、実行する流れになっていけばと期待しています。


髙木晴香(文)

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School Food Forum 2023お知らせレポート

この記事を書いた人:まちの食農教育 編集部

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