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School Food Forum 2023 振り返りレポート_06 エディブル・スクールヤード創始者 アリス・ウォータースさんスピーチ 


こんにちは、理事の森山です。フォーラム2日目に行われたエディブル・スクールヤード創始者アリス・ウォータースさんのスピーチをお届けします。

はじめに、エディブル・スクールヤードについて少し説明を。遡ること1995年、アメリカの多くの学校では人種差別、経済格差、肥満などの問題を抱えていました。子どもの食生活を改善させることが学校改革につながると考えたカリフォルニア州の公立中学校の校長先生とアリスさんは、校庭菜園で作物を育て、調理する経験を通して学びを獲得するエディブル教育をスタートさせました。

近年では4,000㎡ の敷地に野菜、果樹、ハーブ、豆、穀物など100種類以上の作物を有機農法で育てています。ガーデンとキッチンの授業は正規の学習プログラムとして位置付けられています。



一つの公立中学校で始まったエディブル教育の試みは世界中に広がりました。日本では、2014年から東京都多摩市立愛和小学校で始まっています。

私たちNPOまちの食農教育の前身である株式会社フードハブ・プロジェクトも、アリスさんそしてエディブル・スクールヤードと深いつながりがあります。フードハブの設立検討時に立ち上げメンバーらが現地を訪れ、多くのインスピレーションを受けました。その後もフードハブのメンバーや代表の樋口が訪れており、かくいう私も研修プログラムに参加したことがあります。多種多様な野菜や花に囲まれた美しい校庭菜園、色鮮やかなキッチンにとても感動したのを覚えています。


そんな私たちにとっても縁深いアリスさんが、新著『スローフード宣言 − 食べることは生きること』(海士の風)の出版1周年を記念した日本ツアーの一環として神山町を訪れ、フォーラムにも登場いただけることに。エディブル・スクールヤード・ジャパン創設者の堀口博子さんによる事前解説と、同団体アンバサダーで『スローフード宣言』の訳者でもある小野寺愛さんによる通訳という豪華なメンバーでの実現となりました。


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こんにちは。アリス・ウォータースです。

今日、ここに来ることができて、本当に嬉しく思っています。皆さんの国、日本は、食べものと子どもをどちらも大切にしている国ですから、来るたびに嬉しい気持ちになります。ここ日本でエディブル教育に関心がある皆さんと話をする機会に恵まれるなんて、こんなに特別な経験ってあるでしょうか。教えられることではなく、直感で子どもたちが学んでいく、その大切さをわかっている人たちと語り合える喜びといったら!

エディブル・スクールヤードは、たった一つの公立校からはじまりました。今では世界中、6,200校に広がっています。もっと多いかもしれません。

これを皆さんにお伝えしているのは、自慢したいからではありません。子どもたちが自然に触れ、手を動かし、五感で学ぶことがいかに普遍的か、世界中で有効なものであるかを確認するために、数字でもお伝えしました。



世界中の大人が、子どもたちに、栄養のある本当の食べものを与えなくてはなりません。食べものを通して、子どもは自分自身の体の健康と同時に、地球の健康にも貢献している感覚を持つことができます。食べることを通して、国語、算数、理科、社会といった教科学習も学ぶことができます。むしろそうすることでこそ人は一番深い学びを得られるのだと、大人たちが知る必要があります。

食べることを通して生きることを学ぶ、その在り方が広がった時に、子どもは本当の意味で自分のことを自分で守ることができるようになり、大人は自立した人間が育つのを応援できるのではないでしょうか。


やってみたことがある人はみんなわかりますよね?

子どもたちが言葉で教えられるのではなく、五感を使って、触って 香って 食べて 味わった時に、どれだけ簡単にものごとを学習していくかを。

エディブル教育ともう一つ、必要なステップがあると思っています。

学校給食の変革です。

気候変動に悩まされ、地球が変わろうとしている時に、次世代に何を伝えたいか。次の世代が地球を再生する存在になるために、私たちはいま、何を子どもたちに伝えたらいいのでしょうか。

私は、学校給食に力を注ぐことが、手段として一番有効なのではないかと思っています。

来年の秋に新しい本を出します。エディブル・スクールヤードで28年間作ってきたメニューを、試験的に一年間、学校給食で出してみました。地元のオーガニック食材を(卸売価格ではなく)小売価格で買っても、このレシピであればおいしくて栄養価のある食べものを子どもたちに届けることができる、しかも行政が定めた予算内でできる、ということを、この本の中でも証明しています。

学校給食を、オーガニックで、ローカルで、そしてリジェネラティブな(環境再生に貢献する)ものにしましょう。本には、リジェネラティブな農業を営む農家の野菜を子どもたちに届けることは、決して不可能ではないということが書いてあります。どうぞ楽しみにしていてくださいね。


さて、今日の神山まるごと高専での給食は、素晴らしかったですね!

神山の食材がふんだんに使われていて、提供される方法も素敵でした。食事の内容もすばらしかった。最初からすべての学校を変えようと思う必要はありません。世界中の各地に、神山まるごと高専のような1校のモデルがあればいいんです。妥協なくいいものを届ける1校のモデルを、確実に増やしていきましょう。




新しい本は “THE COOK BOOK – Farmer’s First(農家ファーストな料理の本)” というタイトルにしようと思っています。メニューが先にあってメニューのための材料を調達するのではなく、畑にその時何があるかをベースにして料理を作ってみようというあり方です。これは、農家、酪農家、漁師を個人的に知って、その人たちと会話をすることなくしては成立しません。自然と毎日向き合っている人たちは、料理人である私よりも食材の生かし方を知っています。いつ、どこで収穫すると一番おいしいのか、どうやって料理するとおいしくいただけるのか。私はそんな大事なことすべてを生産者さんから教わりました。

シェ・パニースが成功したのは、地元のオーガニックで環境再生型の農家さんたちが作る食べもののおかげです。どんなレストランも同じです。旬の野菜や完熟した果物なしでは、レストランとして成功することなどできません。「完熟であること」は、おいしさにとって欠かせないものなのです。

生産者さんたちは、自分の土地について信じられないほど深い知恵を持っています。私に「健康は土壌にある」と教えてくれたのは、親友の農家でした。地面を覆って根を張り、空気中にある炭素をもう一度地中に固定する力が雑草にあることを教えてくれたのも農家でした。

信じられますか?

気候変動へのおいしい解決策は、私たちの生産者の手元にあるのです。あとはそれを応援するだけでいいのです。


本当の食べものをつくってくださる生産者を学校を通して支えていくやり方を、私はSSA(School Supported Agriculture:学校支援型農業)と呼んでいます。個人と生産者が繋がる方法としてすでに定着しつつあるCSA(Community Supported Agriculture:地域支援型農業)を、今度は世界中の「学校」でやったらどうかという提案です。

では、どこから始めるか。学校が農家とつながりたかったら、まずは食べものの本当のコストをすべて生産者に支払うことを約束しましょう。仲買人を挟むことなく、直接にです。私たちの代わりに大地を守り、海を守りながら働く人たちには、正当な対価が支払われなければなりません。なにしろ彼らは、私たちが生きていくための食べものを作ってくれているのですから。


こういった理解を踏まえて学校が地域の農家とつながること、学校給食で子どもたちに栄養価とともにそんな普遍的な考え方を届けることを、国際的なムーブメントにしていきましょう。学校給食を変えることができたら、人類は、工業的に生産された食べものから卒業することができるかもしれない。子ども時代から、誰がつくったかがわかる食べものを子どもたちが食べる。そうやって、地域にあるものの大切さが伝われば、中央集権的な構造… つまり、遠くにあるものをわざわざ運んできて食べるのは実は不自然なのだという感覚が、自然と自分のものになるのではないでしょうか。

私には、これが実現可能だとわかっています。自分が地域でやってきたからというだけではありません。こうして旅をする度に、他でも取り組んでいる人がいると知っているからです。今回のフォーラムのように、実践している人同士がつながることで、うねりは必ず大きくなります。


最後に、1780年にフランスに生きたブリア・サヴァランの言葉を紹介します。

「国の命運は、その国民が何を食べるかで決まる」

ありがとうございました。




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食べものから五感を使って学ぶエディブル教育にはじまり、公立給食の改革へと歩を進めるアリスさん。歴史の深さは違えど、農体験と食育と学校給食をつなぐことを目指す私たちの考えには共通するものがたくさんあり、励まされる思いでした。

彼女のスピーチはいつも穏やかで、前向きなエネルギーに溢れています。現状の課題を訴えるよりも、より良い未来を語る。「そうでなければならない」という理屈ではなく、「そっちの方がいいよね」という感性への訴えかけ。複雑に絡み合ったシステムの一部を切り出して「課題だ」と声高に叫んでも、大きなシステムの前ではその声はかき消されてしまう。見たい未来を小さくても実現してしまって、共感とともに広げていく方がいい。

そんなことを、彼女のスピーチから受け取りました。

最後に、ハードなスケジュールにも関わらず温かな笑顔と力強い言葉で私たちにメッセージを届けてくれたアリスさん、そして神山町への来訪と登壇を実現するために調整を重ねてくれた小野寺愛さんはじめツアークルーの皆さんに、心から感謝申し上げます。




photo : Akihiro UETA、Masataka NAMAZU(給食写真)


主催:NPO法人まちの食農教育

後援:農林水産省、神山町教育委員会、神山つなぐ公社

助成:日本財団

カテゴリー
School Food Forum 2023レポート

この記事を書いた人:info

まちの食農教育 編集部