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地元の宝「すだち」を支える人を知る神山中学校のふるさと学習
神山中学校では、総合的な学習の時間に、郷土への知識を深めるため、神山町の特産品である「すだち」について学んでいます。2024年9月には、収穫体験として、城西高校神山校の学生が育てたすだちを収穫させてもらいました。10月18日には、すだちのおいしい食べ方と、その歴史について学びました。まちの食農教育は、授業のコーディネートを行っています。
収穫したすだちを使ってプリンを作ろう!
授業に入る前に担任の都留先生から生徒にメッセージがありました。「みんなすだちって当たり前のものと思ってない? わたしは神山町から出て初めて、すだちが貴重な果物だと知りました。今日は、すだちの活用方法を覚えて、高校に行ったときに友だちにすだちの良さを発信してほしいと思います」
神山町に住んでいるとすだちは余らせてしまうほどありふれた存在。きっと生徒たちの食卓にもすだちが当たり前のように並んでいて、シーズンには毎日のように食べているはず。でも「搾ってかける」以外の使い方は意外と知らない。そんなすだちをもっと楽しんでもらうため、今日は豆乳プリンを一緒に作ってみます。
さっそく樋口から、プリンの作り方をレクチャー。
今回は植物性の素材のみで作るため、豆乳を使ったプリンを作ります。
まずは全行程を簡単に説明します。焦げないように葛粉と寒天を豆乳に溶かしながら、ゆっくりと煮詰めます。ポイントは、泡立てずに静かに鍋底をこすりながら混ぜること。
同時並行ですだちのジュレを作り、一緒に固めて、ジュレをプリンにトッピングして出来上がりです。
ポイントを押さえたところでさっそく調理スタート!「俺プリン作る!」「じゃあ俺はジュレ作るわ」と、抜群のチームワークを見せてくれました。「バニラエッセンスくださーい!」と叫ぶ子もいて、なんだか厨房のような賑やかさ。
プリンの液ができたら、固めます。固めている間に今日の講師である「NPO法人里山みらい」の永野さんからすだちの歴史についてのレクチャーがありました。
戦後に始まったすだち農業。仕掛け人の歴史を知る
徳島県の特産品として馴染み深いすだち。昔からあるように思われることもありますが、本格的に栽培が始まったのは戦後から。全国的に知られるようになったのは最近のことです。どのようにすだちが普及したのか、映像を見ながら学びました。
すだち栽培の発祥の地は、神山町の鬼籠野地区。米や芋を自給自足していたため、現金収入が少なく、貧しい生活をしていました。そこで、換金作物として何か作ろうと住民たちで議論して、目をつけたのがすだちでした。葉が小さいので寒害に強く、神山での栽培に適していたのです。さらには、戦後、食糧が行き渡ったことで嗜好品の市場が拡大することが見込まれ、特徴的な香りを持つすだちに大きな可能性を見出した人々がいたのでした。
しかし、すだちの認知度が低い当時、なぜすだちを栽培するのか、風当たりも強かったそうです。それでも、その将来性を信じる仲間が増え、「果樹園芸同志会」が設立されました。その後、収量が増えるにつれ、県内だけでなく大阪や東京へと販路を広げ、あの手この手ですだちをPR。流通量が増えると「良いすだち」とは何かの基準も設定し、さらにすだちを魅力的なものへと作りあげていきました。インターネットもなかった当時、手探りで「絶対に成功させる」という覚悟を持って、すだちを有名にするために動いた人々がいたのです。
その後は、通年出荷のために冷蔵貯蔵やハウス栽培も実現されるほか、加工品の生産体制の構築にも着手。すだち農家の収入も安定するようになりました。映像では、すだちの販路拡大に尽力した人物の紹介もありました。
すだちが徳島で当たり前の存在になっているのは、すだちを有名にしようと尽力した人々の努力の証であることがよくわかりました。そんな人生の大先輩たちのドラマを生徒たちは食い入るように見ていました。
現在、そのすだちを未来につなぐ活動をしているのが、この日の講師である永野さんが代表を務める「NPO法人里山みらい」です。すだち農家の人材育成や、生産支援、六次化、PRをしています。
また、永野さんは2024年9月にイタリアで開催された世界最大級のスローフード*の祭典「テッラ マードレ」に日本代表の90名の一人として参加した話もしてくださいました。祭典中には、現地のシェフとコラボしてすだちのおにぎりを振る舞ったのだとか。身近なすだちが海外で人気になっていることを知り、生徒たちは驚いている様子でした。
*スローフード:ファストフードに対して唱えられたイタリア発祥の考え方で、その土地の伝統的な食文化や食を見直す社会運動や、その食材自体のこと。
すだちをじっくり味わってみる
永野さんのお話が終わる頃には、ちょうどプリンが固まっていました。早く食べたいとソワソワする生徒たち。さっそく食べてみると、まろやかな豆乳プリンと、すだちのさわやかな酸味がよく合います。ちなみに、この日のプリンのレシピも、永野さんが作った「牛乳プリン」を豆乳用にアレンジしたものです。
「いつもすだちサッとかけて食べてたけど、ちゃんと味わってみたらおいしいなぁ」と呟く声も聞こえてきました。当たり前にあるものも、改めて味わうことで感じ方が変わったようです。
あっという間にみんな完食。感想を聞いてみると、「ジュレが美味しかったです!」「プリンだけじゃなくて、すだちを丸ごと食べました」「家でもやりたい」などの元気な声が返ってきました。
最後は永野さんへの質問タイム。「おいしいすだちの食べ方は?」との質問に、「僕は毎日ソーダに搾って飲んでいます」と永野さん。神山ならではの贅沢な楽しみ方です。
当たり前だと思っていたすだちが、いつもよりも大切に思えるようになる時間を過ごすことができました。すだちをきっかけに、子どもたちが地元のことをより誇らしく思えることを願って。
髙木晴香(文・写真)