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SFF2023レポート_05 地産地食を実現する調達システム「スクールフード・コーディネーターと推進する給食づくり 〜神山まるごと高専を事例に〜」

2023年10月15日〜16日の2日間にわたり開催した第1回School Food Forumの振り返りレポートVol.5。今回は、最後に行われたクロストーク③「地産地食を実現する調達システム スクールフードコーディネーターと推進する給食づくり 神山まるごと高専を事例に」を振り返ります。
2023年4月に1期生が入学し、本格始動した神山まるごと高専。寮生活を送る高専生たちは「まるごと食堂」にて食事をとります。食堂の運営を担当するのは、株式会社フードハブ・プロジェクト。立ち上げには、株式会社モノサス社食研と、NPO法人まちの食農教育が参画しました。
まるごと食堂が目指すのは「地産地食率(以下、産食率※)が日本一の給食」。運営を始めて半年の段階で、産食率は72%をキープし、ここからさらに高まることが期待されています。ここで重要な役割を果たすのが、県内の農家や食品卸とつながり、持続可能な食材の調達を担う「スクールフードコーディネーター」です。
現場では、スクールフードコーディネーターと、メニューを組み立てる料理人、そして調理スタッフが連携し、日々の運営を行っています。
クロストーク③では、そんなまるごと食堂の仕入れ、メニュー作り、持続可能な運営体制まで大解剖!
登壇者は、株式会社フードハブ・プロジェクトの管理栄養士である田原佳奈さん、株式会社モノサス 料理人の細井恵子さん、そして、給食の発注側の立場で神山まるごと高専 事務局長の松坂孝紀さんです。モデレーターは NPO法人まちの食農教育 理事の安東が務めました。
※「産食率」は、「地域で育てて、地域で食べている」割合(%)を定期的に測定していくための、フードハブ・プロジェクトが定めた基準。一人1食あたりの「食材費(徳島県産)÷ 合計食材費×100」という計算方法で算出しています。
始動して半年のまるごと食堂の様子
まるごと食堂が始動して約半年。稼働は平日のみで、土日祝は学生たちは寮にある「週末キッチン」で自炊をしています。食堂では朝昼晩の3食を提供。朝はご飯やパンに加えスープやヨーグルト、フルーツ等をセルフで取ります。昼食は丼ものやワンプレートにご飯と汁物、そして夕食ではそれに一品が加わります。

運営で大切にしていることは、温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいままに、できたてを提供すること。また、もうひとつ重きを置いているのが、学生とのコミュニケーションです。会話について細井さんは以下のように話します。
細井「私たちから話しかけることもありますし、学生から『今日はこんなことがあったよ』とか『こんな日だったからお腹すいてない』と話しかけてくれます。食堂ではご飯の量が、小・中・大・神山盛り(特大)と選べるのですが、この神山盛りも学生との会話から生まれました。彼らから出たアイデアを取り入れて柔軟に対応できるのは、私たちも楽しく働ける理由の一つだと思います」
では、学生の反応はどうなのでしょうか。松坂さんより解説がありました。
松坂「とにかくおいしい! これに尽きると思います。入学して間もなくは、学生たちはひたすらご飯の写真をSNSにアップしていましたね。2種類とも食べてみたいと、分け合って食べる様子も見られます。
食事がおいしいので、その分学生が食堂にいる時間が長くなっていると感じています。おいしい食事は作業的ではなくゆっくり食べたいですよね。そして、そこでは必然的に会話が生まれる。それは学生同士でもスタッフでも同じです。食が会話のきっかけになっていると思います」

「日本一おいしい給食」とは、地域に根差した給食
もともと、神山まるごと高専が食堂を立ち上げるときにリクエストしたのは「日本一おいしい給食」であったと松坂さんは振り返ります。しかし、おいしいとは曖昧で、判断する人もいない。そこで、おいしさを紐解いていくと、新鮮で、顔が見える人が作っていることが大切だという答えに辿り着きました。
つまり、地域に根差した食堂を作ることが、おいしい給食につながる。そこで、産食率を重視することになりました。ここには、自分たちが、日本一の産食率を掲げることで、給食への新たな指標ができ、この取り組みに続く学校が生まれたらという期待も込められています。
半年間実施してみて、どれくらいの産食率が実現できたのでしょうか。田原さんは以下のように話します。
田原「2022年度の全国の学校で行われた食育月間での産食率は全国平均で56.5%。一方でまるごと食堂の2023年の前期は71.1%の産食率を達成することができました。平均よりもかなり高い水準を達成できて、運営としては一安心です。
今後は、日本一という数字を体現するため、食育月間の間では100%を目指し、日常では80%を達成できることを目標に定めて進めていきたいと考えています」

高い産食率を達成できたポイント
このような高い産食率を達成するためのポイントは「仕入れ先の調整」と「レシピの組み方」にあると田原さんは言います。
仕入れでは、フードハブ・プロジェクトが育てた野菜を畑から直接持っていくことができたことが第一の強みでした。さらに「かま屋」や「かまパン&ストア」を運営している実績から、県内の生産者や事業者とのネットワークができており、まるごと食堂スタート時からお声がけできたことも大きかったそう。
まとまった取引量ができたため、これまでは仕入れ量が足りないことから取引できなかった県内の食品卸の事業者と新たな取引が始まったことも収穫でした。
また、まるごと食堂はメニューの組み方もユニークです。一般的な学校給食では、メニューが決まってから仕入れる農作物を決めます。それに対して、まるごと食堂では、収穫を迎える(調達できる)農作物を起点にメニューを考えます。組み立てるタイミングは、提供するおよそ2ヶ月前。事前に食品卸や農家に問い合わせ、調達可能かどうかを確かめるところから始まります。
調達には優先順位があり、1番は町内の有機栽培や特別栽培のもの、2番目は町内の慣行栽培のもの、3番目は県内の有機栽培や特別栽培のもの、というようにあるものをリスト化して、そのリストをもとにメニューを組み立てていきます。農作物は天候などによって収量が左右されるので、調達できなかった場合は違う食材への変更や、もともとある食材の中で代用するなど細かく調整しています。
メニュー作りの担当は料理人の細井さん。食材をどう活かせばおいしくなるのかなど、料理のレパートリーは料理人の得意分野なので任せられているのだそう。細井さんはメニューの決め方について以下のように語ります。
細井「あくまで日常の食事だと思っているので、あまり凝った料理にはしないようにしています。いくつも味を重ねるような料理は作らず、おいしい食材を活かしたシンプルな味付けにしています。学生の口に合わなかったときはダイレクトに意見が来るので、それに合わせて工夫もしていますね」
ここで気になるのが、実際の栄養価。田原さんから解説がありました。
田原「実際に提供したあとに栄養価を計算していますが、定食スタイルや丼などの一品スタイルでも使用する農作物や肉、魚などをある程度守っていれば、たんぱく質や脂質などのメインの栄養素は設定している栄養素の過不足10%以内には収まるようになっています。1年を通して食材を変えても耐えられるメニューを作っていきたいと思っています。
また、5年後に全学生がそろった時にはまだまだ足りない食材もあるので、農家さんと一緒になって作付けの依頼などもできればと考えています」

まるごと食堂のこれから
これらの食堂の仕組み作りでは、まちの食農教育主導でガイドラインを作成しました。この理念に沿って取り組みが続けられています。

これらの理念に沿いながら、今後はつくり手と顔の見える関係性の構築や調達先の情報収集に注力するほか、郷土料理や多国籍料理をテーマにしたイベントの開催、まるごとファーム部との連携なども話されました。スタートダッシュを終え、これから人数が増えていく学生に、どのように情報を届けるかが鍵になっているようです。
これらの話を踏まえ、松坂さんが総括しました。
松坂「私たちが大切にしている言葉にβメンタリティというものがあります。βとは、システムの世界などでよく使われる言葉で、最終的にリリースする手前の試作品のことを指します。お客さんになりそうな人に出してフィードバックをもらってアップデートしていくものです。このように、完成系でなくても良いので、まずはやってみることが大切だと思っています。
スタートしてから半年間の中でも、まるごと食堂のβ版がどんどんアップデートされてきています。3年後はさらに良くなっていると思います。初めから完璧ではなくても、改良を続けることに、神山まるごと高専としてもコミットしていきたいです」

質疑応答〜フードロスやオペレーションについて〜
会場で出た質疑応答を一部ご紹介します。コスト面の質問が多く見られました。
Q「地元の食材を使うことでコストが上がることも考えられますが、費用を下げるための取り組みなどはしていますか?」
田原「地元のものを使うとコストが上がる場合もありますが、下がる場合もあります。通常、市場を通して買う野菜も、農家から直接仕入れているので、その分のコストは抑えられています。とはいえ高いものもありますが、そういった場合はB品のものを使っています。B品といっても、市場の基準はかなり厳しいので、使えるものがたくさんあります」
Q「そのとき手に入る食材によって柔軟に献立を変えるということは、コストも上下することになると思いますが、どのように調整していますか?」
細井「価格の変動が大きいのは野菜だけなんです。ベースで使う肉や魚は基本的に価格が動かないので、そこがきちんと押さえられていれば安定させられると思います。現場の細かいやりくりとしては、価格の安定したジャガイモは少し多めにして、少し価格の高いほうれん草を若干減らすなどして工夫していますね」
Q「朝食はビュッフェ形式ということですが、フードロスが出ませんか? 朝食以外でもフードロスを削減するための取り組みがあれば教えてください」
細井「半年間運営してきた中で、朝食を食べる人の人数が大体わかってきたので対応しやすくなりました。もしパンが残ってしまっても適切に管理した上でスープに入れたり、次のパン食の日にフレンチトーストにして出すなど使い切るようにしています。
日々の工夫に関しては、ピーマンを乗せないでと言われたらよけるなどはしています。大人でも食べたくないものってあると思うんです。好き嫌いに関しては無理に食べさせるのではなく、尊重してあげたいと思っています。日々細かい調整をしながら、残渣の量は半年間で1食あたり3〜6g程度に収まっています」
Q「6ヶ月運営してきた中で見えてきた課題はありますか?」
田原「現在は2種類のメニューを2つの提供口で出しているのですが、それをどう続けるのかは課題ですね。現在50人ですが200人に増えるとコミュニケーションも少し薄くなってくると思うので、どのようにつくり手の情報を共有していくかも考えていきたいと思っています」
細井「働きたい人を増やしていきたいと思います。現在、まるごと食堂で働いてくださっている方の最高齢は70歳。体力的な部分はケアした上で、働きたい方が気持ちよく半日や3時間から働けるような場所になるといいなと思います」
松坂「まずは、アレルギーですね。1年目の学生には重度のアレルギーの人はいないのですが、当然いろんな人がいるので、今後の課題になると考えています。また、私たちの取り組みをどう広げていくかを考えています。何をすれば良いのか、どんなことを真似してもらえるのかを整理していくことが必要だと考えています」
「地産地食」の真の意義とは
以下は、モデレーターを務めた安東の所感です。

今回のセッションでは、「地産地食」を食堂のメニューにどう取り入れるか、その挑戦と可能性について多角的な視点からお話を伺いました。生産者のこだわり、調達の課題、調理現場の工夫、そして日々の食事を通じた学生たちの変化。それぞれの視点が交差し、「地域の食が、地域の未来をつくる」というテーマが、より具体的な形として浮かび上がった時間でした。
私たちは単に「地元の食材を使う」ことだけを目指しているのではありません。学生たちが日々のおいしい食事を通じて、自分たちが暮らす土地の気候や風土を知り、それが日々の食卓にどうつながるのかを感じられる仕組みをつくる。それが「地産地食」の真の意義であると、今回のセッションを通じて改めて確信しました。
参加者の皆さんにも、その想いがしっかり伝わった手応えがありました。そして、松坂事務局長が食堂の取り組みを高専の教育理念と結びつけ、「これをモデルケースとして全国に広げていきたい」と語ってくれたことも心強かったです。『モノをつくる力で、コトを起こす』というミッションに向けて、食堂を通じて一緒に挑戦できていることを改めて実感しました。
ご登壇者の皆さん、参加してくださった皆さん、どうもありがとうございました。
食堂は、食べることを通じて世界とつながる場所です。これからも、この場から新しい学びとつながりが生まれることを願っています。

食堂を覗くと、学生たちがワクワクした表情で列を作っている姿が印象的です。
「日本で一番おいしい給食」は、生産者や卸業者とのネットワークを基盤に、現場の細かな調整のもと作られていることがわかりました。ここでできるということは、他でも実現可能であること。まるごと食堂での模索が、全国の学校給食のあり方を変えるきっかけになるかもしれないという希望の見えるトークとなりました。
※役職名は2023年10月時点のものになります。
髙木晴香(文)
植田彰弘(写真)