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活動日誌Monthly News

古くて新しい「ヨゴレもちおかき」

まちの食農教育として、初めて食べ物の販売をします。
子どもたちと育てている「よごれもち」を原料にしたおかきです。

「よごれもち」
神山町の農家が80年以上、種を継ぎ、栽培してきた在来種のもち米。黄色い色味であることから「よごれもち」と呼ばれ、親しまれてきました。
2016年より、町内小学校の子どもたちを対象にした食農プログラムで、この種をつないでいます。

「よごれもち」との出会いは2016年。
まちの食農教育の前身であるフードハブ・プロジェクトの立ち上げ直後。店舗もまだないフードハブの活動の一環で、「よごれもち」をみんなで植え、隣で餅つきをして、ほかほかのつきたてをその場で味わったのが最初の出会い。在来種と固定種、F1種という言葉の意味を知り、町内で「種をつなぐ」営みが消えつつあることも、購入する種の大部分は海外で生産されていることも、活動を進めるなかで知りました。

小学生が「種をつなぐ」取り組みを始めたのも2016年。今年で10年目です。わたしたちの10年は毎年同じ営みの繰り返しだけれど、子どもたちは毎年「初めて」です。「初めて」って、大事だな、と思います。
地域のベテランの前で「やっと10年目です」と言ったら、「ずっと、ずっと、あり続けなくてはいけない」と言われました。子どもたちの一つの通過点として、米づくりを通じて何が残せるのでしょうか。

2025年4月に新メンバー植田を迎え、よごれもちの栽培を農家から受け継ぐ準備を進めています。植田は、神山町の江田地区で13年前から米づくりをしています。これまで作り続けた農家の考えや思いを土台として、植田の知見と先生方や子どもたちの思い、わたしたちの願いが重なり合う田んぼの姿。現状をしっかりと見つめ、一つひとつの活動に思いや願いをのせていくこと。その小さな一歩が、かなえたい未来につながっていくことも、この10年間でおぼろげながら想像できるようになりました。言うは易し行うは難し。まだまだ、まだまだ、です。

今年は、さあくるさんが米づくりの活動を10分の動画にまとめてくれました。何度も見るうちに、経験と言葉が結びついてくる子どももいることでしょう。一人ひとりが、毎日食べるごはんをよりおいしく、大切に感じてくれるといいなぁと思っています。

動画とあわせて、米づくりをリードしてきた植田のレポートも読んでください。今年の試行錯誤と経験値が詰まったレポートです。

田んぼから生まれる「おかき」

2024年に宮崎県高千穂峡にある「わら工房たくぼ」さんに伺い、美しく手入れが行き届いた棚田の横で開かれた、わら細工のワークショップに参加しました。田んぼは米を作る場でしかないと思っていましたが、たくぼさんが管理している棚田はそのほとんどがわら細工のためにあります。棚田らしく不定形な地形ですが除草剤は使わず、斜面の草刈りもすべて手作業。美しい工芸品が生まれる田んぼに触れ、視野が広がったことを思い出します。
わたしたちが暮らす地域の田んぼからは、何が生まれるのかしら。そんなことを思いながら高千穂峡の風景を眺めていました。

田んぼから工芸品。田んぼから米。田んぼからもち米。田んぼから…
「もち米を手にしても、食べ方がわからない」という保護者の声を聞いていたこともあり、もち米の食べ方、使い方、届け方をよりよくできないかな…などと考えを巡らせていたタイミングでもありました。

みんなで食べるとしたら。
「もち」は食べたいけれど、全員分のもちは難しいなぁ…とか。餅つきするとしたら、子どもたちが集まれるのは平日の日中だけど、保護者の参加は難しいよなぁ…とか。3校一緒に開催することもスケジュールが難しいなぁ…とか。いっそのこと、NPOがイベントとして主催して、任意参加でやればいっか!とか。でもその費用はどうしようか…とか。
いろんな可能性が膨らむ一方、どれも決め手に欠けていました。

「もち米を育てた人たちで、おいしく食べたい」それを実現する方法はなにか、ということです。

そして、ちょっと背伸びをして目指すならば、わたしたちの食農教育の定義にしている「子どもの創造性をひらき、地域の経済と環境の循環をはぐくむ仕組み」をつくっていくには何ができるといいのか、を考えていかねばならないのです。

もち米の「おいしい」を届けたい。
食農プログラムの一歩先に、子どもたちだけでなく、子どもたちの家族や、地域の方や、活動を応援してくださる方と一緒に食べられるものが生まれるといい。

そんな思いと重なりそう…というか、やってみたら楽しそうだな、と思えたのが「おかき」でした。(わたし、もともと揚げおかきが大好きなんですよね。)

もち米の収穫量、品質、予算… いろんなせめぎ合いはありますが、精華堂霰総本舗さんという、持ち込みのもち米で製造を引き受けてくださる会社に出会ったのも、縁です。
精華堂さんが販売されている塩味のおかきがとてもおいしく、ぜひ「よごれもち」の製造をお願いしたいと相談し、「ヨゴレもちおかき」が生まれました。

見ての通り、うれしく、おいしい仕上がりです。

パッケージのラベルに押した消しゴムはんこは、神山町に暮らす「いつもどおり」の高瀬尚也さんと高瀬美沙子さんの制作。お二人は2024年度に町の広報誌の制作で食農教育の取り組みを丁寧に記事にしてくださったご縁。美沙子さんは今年の田植えにも参加してくださり、活動をよく知って、いつも応援してもらっています。
手を使い、体を動かし、食べ物を育てる。子どもたちの活動する田んぼから生まれた「おかき」と、その風景に寄り添う「ヨゴレもちおかき」の字体。ビシッとハマりました。

「ヨゴレもちおかき」はBASEでの販売を始めました。活動へ共感してくださる方、揚げあられファンの方、もち好きの方はぜひお買い求めください!!! 今のところ、味見をしていただいた老若男女全員が「おいしい!!」と反応してくれます。(5袋セット、10袋セットのみの販売。2月末までの期間限定です)

https://shokunooo.base.shop
↑購入は、こちらのサイトから。

地域の食文化の源が、学校にある

学校で「食べる」活動といえば、給食です。もち米づくりの工程でも大切にしているのがその提供機会です。昨年度から、栄養教諭に相談し、給食調理員さんたちの協力によって学校給食で「よごれもち」を使ったメニューが提供されるようになりました。

神山町内の一つの小学校では、約半数が移住家庭と聞きました。
移住してきた家庭の多くは、子どもが「郷土料理」を食べる機会は少ないことが想像できます。保護者もその土地の郷土料理に馴染みがない方が多いでしょうし。

ですが、学校給食では「郷土料理」が登場します。
定期的に、必ず献立に組まれています。栄養教諭の先生方は県職員のため、県全体でレシピが共有されている場合もあるでしょうね。
自分の話で恐縮ですが、もう数十年前の出来事。樋口家では小学校の給食で出された「そば米汁」を母に作ってくれるようリクエストして以来、そば米汁が食卓にあがるようになったという歴史があります。給食メニューから家庭へ、郷土料理がインストールされたのです。今の学校給食ではそば米汁が出されることはないですが(アレルギー対策のため)、給食でおいしいメニューがあれば家庭でリクエストする流れは今もあるんじゃないでしょうか。

もち米も然り。
給食でおいしいもち米メニューを食べたら、子どもが家で「作って!」とお願いするかも知れないし、自分で作るかも知れない。「育てる」の次は「食べる」「料理する」と、実感を持った経験を積み重ねていってほしいな、というのが私の願いです。

湯澤規子さん(法政大学人間環境学部 教授)は、「遊び学び」という言葉で遊びや余白の必要性を説き、「食べものがたり」のワークショップを開いていらっしゃいます。神山町の「よごれもち」も、子どもたちの実感のある言葉や表現から、その文化をつないでいく橋渡しができないかと思いを馳せています。

いやいや、ついつい。
大人の願いはほどほどに、まずは子どもたちの食環境、「そだてる、あじわう」が存分にできる環境づくりを大人としてがんばっていきたいと思う年末です。

photo: Akihiro UETA

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この記事を書いた人:樋口 明日香(ひぐち)

まちの食農教育 代表理事| 徳島市出身。神奈川県で小学校教諭として勤めたのち、徳島県にUターン。2016年よりフードハブ・プロジェクトに参画(食育係)。2022年から現職。神山町で「そだてる、あじわう、つなぐ」食農プログラムを推進。毎日、おいしいものを探索しています。 noteもぼちぼち。https://note.com/shokuno_edu/